やられた。
まず思ったのはそれ。
温かな湯船につかり――身も心も癒された感覚で脱衣場へと躍り出たアリスは、今自分に起こっている出来事がいまいち理解できなかった。
頭から冷水を被せられたように自分の脳髄がすっと冷えたのが分かる。
もう一度お風呂に入りなおそうかと一瞬後退したが――やめた。
風呂が長いとどっかの誰かさんに乱入されるのは是が非でも回避したいし、もう一度湯船につかって逆上せるのも気分が悪い。
アリスはさっきまで上機嫌だったのだ。
豪華にも湯船に薔薇の花びらを浮かべて、その香りさえ楽しみながら大好きなお風呂を漫喫していた。
長い栗色の髪を水が滴り、アリスの白い肌をつーっと滑る。
乾かさないと風邪を引いてしまうのは分かっているのだが、アリスは自分の身体に巻いたバスタオルをどうしても取る事ができないでいた。
眉間を抑えて何がどうしてこうなっているのかを考える。
いや、原因は分かっているのだ。元凶となっている人物さえ分かる。
アリスが理解できないのはただ一つ。どうして今この瞬間その災いが自分に降りかかっているのか、だ。
「………」
眉間に当てていた指を離し、今度は片手で顔を覆って深ぁぁい溜息を吐く。
指と指の隙間からちらりと脱衣カゴを見れば、全く見覚えのないものがそこに収まっていた。
手に取らなくても何か分かるそれに――現実逃避よろしくアリスは明後日の方向を見つめて首を振る。
いっそ夢であって欲しい。
見たくないものまで見え、聞きたくないものまで聞こえる。
それこそが現実。それこそが悪夢だ。
あぁほんとにその通りだよ!!!!
ガンっと拳を壁に叩きつけて首を振る。首を振る。首を振る。
別にナイトメアが悪いわけじゃない。悪い所などどこにもない。
そうこの出来事には1mmも関わっていない、関わっていてなるものか。
意を決してアリスは顔を上げ、脱衣カゴの中に入っているものを手に取った。
本来ならここには自分のナイトウェアが入っていたはず。だが、いくら見回してもそれらしきものはここにない。
代わりにそこへ鎮座していたのは――――
「…あの、馬鹿…っ!」
下着?いや違う、ベビードールだ。
……違わないよベビードールは下着の一種だよ!!
真っ白なそれを両手で広げてアリスは一人赤面する。
フリルやレースが可愛い。可愛いともさ。
しかしなんだこの透け具合は!
ていうか…ていうかスリット入り過ぎでしょ!
左側のサイドには脇の下までスリットがばっさり入っており、横から見たら裸同然だ。
ブラはもちろん入っていない。
あるのは――
「……っ!!」
もう、口に出していうのも恥ずかしい。
察して!察して頂戴!!
なによTバックって…!履いたことないわよ何してくれてんのよあの×××××!!!
胸だって、一応隠れているが半分は隠れていない。
ものの見事に透けている…綺麗に刺繍が入っているがそれで全部が隠れるわけじゃないし、丈の長さも膝よりかなり上だ。
何よりサイドのスリットが大きすぎる。
少しでも屈めば横から全部見えてしまうし、それでなくてもバッサリ開いているだけ心もとない。
こんなの着てないのと一緒じゃない!!!
むしろ着ている方が恥ずかしいとさえ思えるベビードールに、アリスは赤くなったり青くなったと忙しい。
このままここで百面相している場合でないのは分かっている。
夫が「遅い」と痺れを切らして入ってくることは当然だし、その場合はその場合でとんでもないことになるとアリスは知っていた。
今のアリスは素肌にバスタオルを巻きつけているだけ。
例えこのベビードールを着ていなくても、あの男は嬉々としてタオルを剥ぎ取りアリスに覆いかぶさってくるだろう。
いやこれを着て出て行こうとも結果することは変わらないけども!
変わらないけど!変わらないけどね!?
そんなこと言ったら例え普段のナイトウェアであってもやること全然変わらないけど!
だが…だがしかしだ!!!!!
大体こんなもの…一体どんな顔して買ってきたんだろう…
いつだったかビバルディが選んでくれたものよりよほど酷い。
(…どっちにしろ、着ていくしかないのが腹立つわ)
アリスの葛藤虚しく、どちらにせよ選択肢は一つしかないことを彼女は知っていた。
脱衣場で襲われるのは勘弁して欲しい。
ブラッドの部屋に備え付けられている風呂場とは言え、ベッドと違って解放感のあり過ぎるそこはアリスの羞恥心を十分に誘う。
だったら一時恥ずかしい思いをしてベビードールを着ていって…脱がされた方がマシだとアリスの脳は判断した。
しかし今のところ…これを着るという決断力が今のアリスにはまだ湧いてこない。
鏡に映っている自分の身体は特別目立って悪い所などない。
昔は貧層だった身体も年を取ればそれなりに成長するし、運もいいことに胸も割と十分膨らんだ。
色が白いのは昔からだし、外出が多いせいか生傷が所々できているのが気になるがそんなのもの凄く今更だ。
(何にせよ、ブラッドに言い寄ってくるお嬢様方には敵わないしね)
はぁ、と溜息を一つ零せば思考回路も暗くなる。
あれほどの美貌とスタイルがあれば、アリスの自信もそれなりについていただろう。
不細工とは言わないが特別秀でている部分もなく、体型にしてもまた然り。
こんな自分を可愛い可愛いと褒めてくれる同性の友人が2名ほどいるが…彼女らの美貌はこれまた桁外れでアリスの自己評価は下がっていくばかりだ。
再度、深い溜息を吐いて、アリスはばさりとバスタオルを脱ぎ捨てた。
最終的には着なくちゃいけないんだから、さっさと着てさっさと済まそう。
部屋の中で待っている男は一度殴ってやりたいが、それも事が済んでからでいい。
ブラッドがすり替えた――ベビードールを着てアリスは3回目の溜息を吐く。
あまりの恥ずかしさに鏡はもう見れない。
あとはこの脱衣場を出て行くだけ。
ゆっくりと深呼吸をして、アリスは目の前の扉を開ける。
一瞬ふるりと震えた背中が――アリスの感情全てを物語っていた。
□■□
「私は今、最高の気分だ」
「…私は最低な気分よ」
あまりの恥ずかしさから顔を背ければ、頭上から至極上機嫌な笑い声が聞こえてくる。
近年稀に見るほど最上級に機嫌の良いブラッドは、アリスの両手首をベッドに押さえつけ――押し倒され寝転ぶ形になっている彼女をじっくりと見つめている。
これが仰向けならまだ良かったものの、このベビードールを用意したブラッドはそれがどういう構造になっているかきちんと理解していたらしい。
左サイドに大きく開いたスリット。そちら側がよく見えるようにとアリスは右向きに寝転ばされており、体勢を変えようにも自身の足で器用にそれをブロックしている夫の手腕によってアリスは抵抗を早々に諦めた。
これが一昔前なら――手足が使えなくても頭突きの一つや二つかましてやったものだが、今となってはそんなことする気にもならない。
恥ずかしさは正直かなりのものだが自分という存在で喜んでもらえるなら嬉しいと思うし、なるべく素直で可愛い自分でいたいと思ういや恥ずかしいけども。
「早く…脱がしてもらえないかしら」
「君からそんな積極的な発言が聞けるとは―「違う恥ずかしいのよ!ヤるなら早くして!!」―淑女がヤるとか言うものじゃないぞ?」
にやにやと笑う夫が憎たらしい。
まだ何もされていないのに既に涙目のアリスだったが、ここで睨み付けようものなら「そんなに煽るな」とあれやこれやねちねち攻められるに違いない。
夫の性癖――趣味嗜好。かなり長い夫婦生活の中でもう全部理解していたつもりだったが、まだまだ本番はこれからだったらしい。
ブラッドの手のひらがアリスの足をするりと撫でる。
思わずびくりと身体を強ばらせたアリスににやりと笑って、その手はゆっくりと上昇し、膝の裏から太ももを辿り、むき出しになっている臀部をゆっくりと撫でる。
時折きゅっと力を込めれば「あっ…」と鳴く声に――ブラッドは下半身に熱が篭もるのを自覚しながら再度アリスの身体を見下ろした。
「――――――」
赤く火照った身体に純白のベビードール。
羞恥心がそうさせているのか、身体のどこを撫でても溢れ出るアリスの色を含んだ吐息に、ブラッドはこのままめちゃくちゃに犯してやりたい気分になった。
汚したい。穢したい。舐めて、犯して、アリスの全てを蹂躙したい。
止まらない欲求を封じ込めるように深くアリスに口付けると、既に力の抜けきっている彼女は簡単にブラッドの進入を許し口内を犯される。
その間もブラッドの手は止まらず――太ももの内側をゆるゆると撫でながら、秘部を隠しているようで隠していない紐を引っ張ると、溢れ出る密が更に彼女の足を濡らす。
ブラッドはアリスの舌を絡め取りながら十分に潤っているそこに指をねじ込むと、びくりと浮き上がった彼女の腰が更に奥深くへとブラッドの指を飲み込んだ。
「んーっ!」
ぐちゃぐちゃと休息を与える暇もなくかき回す。
突然の快楽に大きく目を見開いたアリスと視線を混じらせながら唇を離すと、開ききった口からあられもない声が漏れ始めた。
「あっ…あぁ!んぅ…や…」
零れ落ちそうな涙を舌ですくい、目尻に口付けながら二本目をねじ込む。
一際高い声で鳴き始めたアリスの花芯を親指で擦り、ゆっくり唇を首筋へと下ろして強く吸い付けば赤い薔薇がそこに咲く。
ブラッドだけが知っている、アリスの一番イイ所。
そこだけを集中的に弄ってやれば、いつも以上に感度の良い彼女の中がブラッドの指を締め付けた。
「ああぁ…っだめ!だめっだめっブラッド…!んあ…イ、っちゃ」
蠢き縮小し始めた内部を更に暴いて芯を擦る。
首筋に数カ所薔薇を咲かせたブラッドは満足げに笑い――衣越しにでも分かるほど尖った胸の先端を軽く噛むと、「!ああぁん…!!」と高く上がった声と同時に彼女の内部がきゅっと締まり上がったのが分かった。
予想よりも早いな…
普段と違う格好をしている。それだけのことがアリスの羞恥心を誘うのか、ブラッドの予想よりも早く絶頂を迎えた彼女に軽く目を見開く。
肩で大きく息をするアリスから指を引き抜き体勢を起こすと、くいっと弱い力で胸元のシャツを引っ張られ思わず首が下がる。
荒い呼吸で頬を赤らめ、涙目になっているアリスが物言いたげにじっと此方を見つめており、
そのあまりの官能的さに一瞬目眩がしたブラッドだったが、滾る理性をぐっと堪えて「どうした?」と彼女の栗色の髪を撫でる。
昔は「やめろ」だの「嫌だ」だの「何が楽しいのよ!」と合間合間に拒否され怒鳴り散らされるため有無を言わさず組み敷くことが多かったが、ある日を境にそれはぴたりと止んでしまった。
あれはあれで可愛かったが、今ではこうして素直に甘えてくれる彼女も堪らなく可愛いとブラッドは思う。
一度絶頂を迎えて思考が蕩けているアリスは、掴んだままのブラッドのシャツを手放すことなく「一人だけ…着ているなんて、ずるいわ」と力の入らない指先でシャツのボタンをなぞった。
アリスの行動にブラッドは優しくキスを落とす。
ベストを脱ぎシャツを脱ぎ、ようやく素肌を晒したブラッドの首筋にアリスは両腕を伸ばして絡みつく。
片手でアリスの背中を支え、もう片方で膝を抱えながら自身の楔を彼女の中心に押し当てる。
くちゅ、と響いた水音にアリスの背中がふるりと震えた。
「ん…あっ…や」
「入れるぞ?」
シーツに染みを作るほど溢れている密を、自身の楔ですくい取りながらゆっくりと腰を沈める。
指二本で一杯になるアリスの中は狭く、押し開いていくこの感覚が何とも堪らない。
「ああああっ」
絶頂を迎えて間もないアリスの中は殊更に狭い。
内部がブラッドに絡みつき、奥へ奥へと誘おうとするそれに抗いながら――焦れるアリスを見て見ぬふりしてゆっくりと差し込む。
「んっ…ん…あ、あ…いやっ、ブラッドっ」
「――何が、嫌なんだ?」
「あぅ…っ」
腰が浮いているぞ?アリス
快楽を求めようとするアリスを精一杯焦らしていく。
自らこうしてくれと言わせたくて、ブラッドは笑みさえ浮かべながら口を開いたままのアリスをじっと見下ろした。
「言わなければ」
ぐちゃり
「分からないぞ…?」
引き抜く。
急に自身の中からいなくなった異物に、アリスは涙を零しながらぶんぶんと首を振る。
アリスの身体はブラッドを求めるようにできている。
アリスをここまで仕込んだのはブラッドだ。
長い時間手間暇かけてじっくりと――ブラッドはアリスに快楽というものを教え込んである。
求めない、わけがない――
「ぃや…ブラッド、ちゃんと…」
「ん?」
再度、あてがい埋め込む。
時間をかけてゆっくりと押し開く。
アリスと違ってブラッドには多少の余裕があるように見えたが、あくまでそれは見えるだけ。
ブラッドが用意したベビードールを着たままのアリスを乱すのはブラッド自身にとっても大きな我慢を強いられる所であって、 本当ならばこのままめちゃくちゃに突き動かしてやりたいと彼は思っている。
だがそれでもブラッドはアリスの言葉を待っている。
ブラッドとアリスの情事はいつもそうだ。
始めるのはブラッドだが、決定打はアリスが打たないことには始まらない。
アリスを脳髄から蕩けさせるためには、アリスの自主性が必要なことをブラッドは知っていた。
「ひゃうぅ…んあっ、や…あぁ!あ、やああ!だめ!抜いちゃ駄目ぇ!!」
「…駄目なのか?」
だめぇ…
「ふっ、んん」涙を零しながら足を開き、自身の指を噛んで快感に抗おうとするアリス。
抗いたいのに抗えない。抜かれると堪らなく切なくて苦しくなる。
もっと…もっと突き動かして欲しい。
いつものように、腰を抱いて、逃げられないように、むちゃくちゃに攻め立てて欲しい。
アリスはブラッドに抱かれるのが堪らなく好きだ。
自分の全てを投げうってしまいたい。
壊れかけの理性。ギリギリ保っている理性。羞恥という感情から素直にブラッドを求めることができない理性を、早く壊してしまいたい。
ブラッドもそれを待っている。
アリスが理性的でなくなるのを。全てを置き去りにしてただブラッドだけを求めるのを待っている。
「あぁぁ…」
ぴたりと動きを止めたままのブラッド。
アリスの中にはブラッドの楔が半分ほど埋まっている。
足りない。欲しいのはもっと奥だ。
ぐりぐりと胸の先端を摘ままれ、あられもない嬌声を上げながらアリスの目の前はチカチカとしていた。理性が――
「とび、そ…」
あぅん…
「飛びそう、か?」
いいぞ?早く飛ばしてしまいなさい。
そうしたら、こうしてあげよう
ずんっといきなり埋め込まれた熱量に「ああぁん!!」とアリスの背中が大きくしなる。
両手で腰を押さえられ、有無を言わさず突き動かされるそれにぐちゃぐちゃと激しさの増す水音。
それが自分の身体から出ている音だと思うとアリスは堪らなく恥ずかしかった。
ブラッドに押さえつけられ蹂躙されている。犯されている。
こんな格好で、胸の先端を弄られながら中をブラッドのものでかき回されている。
「あぁ…!あっあっ、あああ!ブラッド…んんっ、あ、あぁん!」
だがもう何でもいい。
もっと、もっと…もっと、シてほしい。
堪らない快感に、有無を言わせず二回目の絶頂が迫ってきた。
嬌声をあげることしかできないアリスは、開いた口をそのままにぎゅっと目を瞑ることしかできず、押し寄せる快感に身を委ねようとする。
が、
「おっと…ちゃんとおねだりができたら、の話だったな」
あと一歩の所でずるりと引き抜かれる感覚。
あまりの無慈悲さにアリスは思わず「いやぁ!」と叫んだ。
「いや、いや、ブラッド」
ふるふると首を振るアリスを押し倒したままの状態で、再度入り口に自身をあてがいながら「何が?」と耳元で囁いてみせる。
耳も性感帯の一つであるアリスは、ブラッドの声と吐息にびくりと身体を震わせ、夫の首筋に両腕を回して「もっとぉ」と強請ってみせる。
アリスの理性は既に飛んだ。
「いれ、て…ちゃんとっ奥までっ」
「こうか?」
ずぷりと一気に押し寄せてくる熱量。
息をする暇もなく最奥に辿り着いたそれにがたがたとアリスの身体が震える。
「あぁ!…っそうっそれ!」
「これだけでいいのか?」
「いやぁ…動いて、」
おねが…っああぁ!
当然始まったピストン運動に大きく身体が跳ね上がる。
「あっ、あ!きもちい…っあぁあん!」乱れよがるアリスの耳にじゅぶじゅぶと激しさを増していく水音が響き、目の前がちかちかと点滅し始める。
もうないに等しい理性の中でも、アリスは無意識に理解していた。
まだこれは一回目で、しかも自分の快感と絶頂である。
ブラッドが果てるまで今回は何度イキ続けるのか、ブラッドが果てるのだって一回や二回じゃ終わらない。
それこそ彼が満足するまで続けられるこれに、アリスは言い様のない期待を覚える。
ブラッドに仕込まれた身体は、ブラッドに慣らされちょっとやそっとのことじゃ満足できない。
「あ、はっ!イ、てる…イってる!ブラッド止まってぇ…!あああ…っ」
アリスの懇願が聞き届けられたことはない。
腰を押さえられ、身動きが取れず快感を逃す術もない。
角度を変え体位を変え、ひたすらに突かれ擦られるそれは止まらない。
「あぁ…気持ちがいいよ、アリス―――いやらしい格好だ…すっかり誘惑されて、止まれそうにない…っ」
片方だけ肩紐が外れ、露わになった乳房にブラッドが吸い付く。
ずらされただけで履いたままのTバックはアリスの愛液でぐちゃぐちゃだ。
それが堪らなくブラッドの興奮を誘い、打ち付ける腰は止まらない。
頬を染め蕩けきったアリスに口付ける。
飲み込めない唾液がアリスの口から溢れ落ちるのを眺めながら、喘ぐ彼女の甘い声に、ブラッドは緩やかだった動きを早くしていく。
「んあぁ…っあっあっ、また…っ!はげし…っ」
「っ…嫌、か?」
「いい…っきもちいい…!あぁ、あ!あああぁ…!それ!それぇ…っ!!」
一際強く打たれ、アリスは身悶え涙を零す。
打ち込まれる熱い塊は押し上がってくる一方でそれに抗うことはできない。
強烈な快感がアリスの身体を蝕み、駆け上がっていく感覚にアリスの意識は飛ぶ寸前だった。
「はぁ…っ出すぞ」
更に早くなる動き。
アリスの一番敏感な部分を的確についてくるそれを、どうしようもない快感からアリスは無意識に締め上げる。
ブラッドに仕込まれた身体はブラッドの都合がいいようにできており、それを自覚する度アリスの身体は歓喜に震えるのだ。
「あぁ…あ、あああっ!」
悲鳴のような嬌声。
ぎゅっと締まった内部でブラッドの楔が脈打つ感覚がする。
この瞬間がアリスは一番好きかもしれない。
いつもは余裕そうな男の顔が歪むのも、ぽたりと自分の身体に落ちる汗も、精を吐き出した後の艶めいた溜息も、その全てが自分のものだと思うとアリスは堪らなく幸せだった。
投げ出した肢体が重い。
身体に覆い被さっているブラッドの重さが心地よくて目を閉じると、一瞬で意識が飛んでいきそうな感じがする。
中に注がれる感覚も気持ちがいい。
この男の全てが自分のものだと、アリスはいつだって胸を張って言えるのだ。
□■□
広いベッドに俯せになって、アリスはぼーっと隣で煙草を吸う男を見つめた。
被っているシーツの足下には脱ぎ捨てられたベビードールがある。
ブラッドのシャツやズボンについてはベッドから滑り落ちており、あのままでは皺になってしまうと考えるも、身体がだるくて拾い上げる気にはならなかった。
あれ…いつ脱いだんだっけ……
正直もう着る機会はないだろう、むしろあっても困るとさえ思うベビードール。
それを着ているアリスを大層気に入ったらしいブラッドは、情事の最中も決して脱がそうとしなかった。
一回、二回までは着てた気がする。三回目は覚えてない…四回目にはもう全裸だった気がする。
結局アリスの身体を余すところなく眺め舐めて犯したいというブラッドに、着衣プレイは向いてない気がするとアリスは混濁した思考で考えた。
ていうか…何回シた?もう数えるのも億劫だ。
一度意識が飛んだ気がしたが、ブラッドにはそんなことおかまいなしなようで、意識が戻れば再開される。
この性欲魔神め。絶倫男。だが昔は一回で意識が飛んでいた自分も、五回目までは数えていられるようになったのだから大分慣れてきている。
これは危険だ。
するりとシーツの中から腕を伸ばし、ブラッドの脇腹辺りとつーっと撫でる。
「どうした?」と優しい声を出して頭を撫でてくれるブラッドに、(ずるいなぁ)と思いながら擦り寄ると、彼は煙草の火を消してぎゅっとアリスを抱きしめた。
「うちの奥さんは甘えん坊だな」
「…眠いのよ。枕がないと寝られないじゃない」
それより、もう着ないわよ。あんなもの。
伸ばされたブラッドの腕に頭を乗せる。
喘ぎすぎて掠れた声で不満を口にするアリスに、ブラッドはにやにやとその笑みを絶やさない。
「いいや、気に入った。また着てもらう」
次はまた、別のものを。
あれ以上何を着せようというのだ。
そのうち下着なんか選び出したらどうしようと心配をし始める妻を余所に、ブラッドは至極楽しそうにアレが良かったコレが良かったとアリスの魅力を語り始める。
「黒も似合いそうだな。君は肌が白いから…一層映えそうだ」
「…いやよ」
「他の色でもいいぞ?色があった方が―――濡れた時は分かりやすい」
「何言ってんの、このばか」
ぺちりと夫の胸元を叩く。
力が入らないのが無念だが、少しだけ赤くなった肌に(ざまーみろ)と息を吐いた。
「脱マンネリ化に丁度良いと思ったんだが…」
「マンネリ化なんてしてないから大丈夫」
「恥ずかしそうに風呂から出てきた君を見た瞬間、その場で押し倒してしまいたかったよ」
「私は部屋に戻った瞬間の貴方の笑顔を見て、もう一度お風呂に入り直したくなったわ」
とことん食い違う意見。
だがアリスのあぁいう格好がいたく気に入ったらしいブラッドは決して折れない。
今後も脱衣場の寝着がすり替えられる可能性は大いにある。
本当に勘弁して貰いたい。
「大人しく、ビバルディに勧められたものを買っておけば良かったわ」
少なくとも今回のよりはマシだった。
「どうせ血のように濃い赤色だろう…似合いはすると思うが――」
「お姉さんが選んだものに興奮するのは嫌?」
「というより癪に障る。君との情事の最中に思い出したい女ではないな」
「いいじゃない倒錯的な世界で」
「私に一体何を求めているのかな?アリス」
嫌そうに顔を歪めるブラッドの――眉間に指を這わせちゅっと触れるだけのキスをする。
「とにかく、すり替えるような真似は今後やめてちょうだい」次にやったら今後は大浴場に通うわよ、と脅しつつ、瞼を閉じればさらりと頭を撫でられた。
「では――お願いしたら着てくれるのかな?」
「…着たくないんだけど」
「では強制的に衣装チェンジさせろと?」
怒る君を組み伏すのも悪くないが、私は恥ずかしがる君が見たい。
いやだから着たくないって言ってるのに、とアリスは呆れて溜息を吐く。
あぁこの男に従順になってしまったのはいつからだろう。
こんな男が実はどうしようもなく好きなのだ、と。
自覚し、認め、これからもそうで在りたいと思った時から――アリスはいつだってブラッドのものだ。
「次は――」
ブラッドの胸元に額をくっつけ、見られたくない表情を隠しながらアリスは言う。
「私が選んだものに興奮して頂戴」