柄にもなく、アリスは緊張していた。

12月25日。クリスマス。
世界的に大きなイベント事の一つであるそれを恋人と過ごす――という構図は今回が初めてで、時間を決めて待ち合わせするという事も初めてだった。
勝手に人のアパートへ居座ったり、あるいは彼の家から何日も出させてもらえなかったり、そういったことが多いアリスはデートらしいデートをしたことがない。
これも全て恋人(……多分恋人)――ブラッド=デュプレの性格に起因するのだが、「だるい」「眠い」「面倒くさい」が口癖の恋人とは、基本的に室内で過ごすことが多かった。
主に読書、そしてお茶会。
外に出たことなど数えるほどしかなく、引きずっても庭までしか出ようとしない。
それかばったり街中で会ったり、時折だがアリスの学校帰りに迎えに来てくれたりと、特別外で会う機会がないわけではないのだが、自主的に外でということはやはり今回が初めてだと思う。

(ブラッドでも、イベントを意識したりするのね)

興味がないと思っていた。
バレンタインデーのように男女に纏わるイベント事には積極的――むしろ狂気染みているほど執着するが、その他のことにしては興味が無いのか、アリスはあまりブラッドと何かのイベントを楽しんだことがない。
最近ならハロウィンだっただろうか。
これも結局ビバルディや近所に住む双子、ピンクの頭が奇抜な友人達と楽しんだくらいだし、ブラッドもそれに対して何か言うことはなかった。
それがなんとなく口惜しくて、ビバルディと深夜に帰宅した際に、当てつけの如く仮装を披露して見せたりもしたが……まぁこの件に関しては散々な目に合ったとだけ言っておく。
コスチュームプレイなど全くもって微塵も興味なんてないのだ。
大体ハロウィンとはそういう楽しみ方をするものでも―――――話が逸れた。
とどのつまり、ブラッドはイベント事に関して興味が薄い。
嫌いではないようだが、自分から楽しむタイプではないようで――だからこそ、『クリスマスは出かけるか?』と何でも無いように問われた時、アリスは言われた意味が分からなくて『は?』と間抜けた返事をしてしまったのだ。



(あんまり考えてなかったのよね、クリスマスなんて)

実姉は「家に帰ってこない?」と聞いてくれた。
学業の都合で一人暮らしをしているアリスに気を遣ってくれたのだろう。
確かにクリスマスに一人きりというのは寂しいが、どうせ年始には帰るつもりだったアリスはそれを断った。
クリスマスから年始まで、1週間で実家を2往復するのはつらいなと思った結果である。
次にアリスへクリスマスの誘いをかけてきたのはペーター=ホワイト。
誘いを掛けてきたというより、彼と自分がクリスマスを一緒に過ごすのはもう既に決定していると言わんばかりに語る白ウサギの妄言を、アリスが鉄拳制裁で断ったのが3週間ほど前だった気がする。

一応アリスにも、クリスマスくらいは恋人と過ごしたいなという感情があったのだ。
恥ずかしくて絶対口にはできないが、どうせあの男は家に引きこもっているだろうと――何ならビバルディと3人でケーキを食べてもいいと思っていたほどに。
それくらいはできたらいいな、という程度。
だから本当に、ブラッドからの誘いは青天の霹靂だった。





ポケットの手を突っ込んで、隣を歩くブラッドの耳は赤い。
雪が降り積もる真冬の冷気は凶器的で、アリスの指先も真っ赤にかじかんでしまっていた。

精一杯めかし込んできた――つもり。
この日のためにと新調したコートに、お気に入りのワンピース。
ブーツは冬物が始まった頃クリスタに選んで貰ったものだし、気付いているかは定かではないが、つけてきたアクセサリーはブラッドに贈られたものだ。
髪型だって少しだけ変えて、頭の上にリボンなんて子どもっぽい格好はしていない。

だってクリスマスだ。しかもデート。
その上隣に立っている恋人は、自慢でも何でもなく本当に格好良い。
精一杯めかしこんできた。
精一杯背伸びしてきた、の方がお似合いかもしれない。
そりゃあアリスだって意識もすれば背伸びもするのだ。
日頃から罵倒し、邪険に扱っていても恋人は恋人。好きな人は好きな人。
アリスにとって特別で、アリスを特別だと言ってくれる人。

緊張している。
意識している。
舞い上がっている。
不安に思っている。

色んな感情がごちゃまぜになって、アリスはブラッドと上手く話すことができないでいた。



「寒いのか?」

ふと頭上から響いてきた声に、アリスは素直に「うん」と答える。
両手を擦り合わせながら「貴方も耳が赤いわよ」と言えば、ブラッドは「冬だからな」と気にした様子もなく呟いた。

「雪まで降るとは思わなかった」
「天気予報見てこなかったの?傘がいるほど降るようには言っていなかったけど……」
「見る習慣がないからな」
「……引きこもりだものね」

それにしても寒い。
寒いと予想していながらも手袋をしてこなかったのがアリスの敗因であるが、少しの時間出歩く程度なら大丈夫だと思ったのだ。
どこへ行くのかくらいは聞いてあったし……まぁだからこそ、隣の男も防寒対策が完璧ではないのだろう。


「ずるいわ……」

思わずぽつりと呟いた言葉はブラッドに聞こえたようで、彼は「何がだ?」と訝しげにアリスを見下ろす。

「手」
「手?」
「うん、あったかそう」

擦り合わせていた手を離して、アリスは右手をブラッドへと伸ばした。
デート中にポケットへ手を突っ込んだままなんていう真似は、淑女たるものと教え込まれたアリスにはとてもじゃないが出来やしない。

伸ばした右手でぐいっと恋人の腕を引くアリスに、彼女の意図することが分かったのか、ブラッドは「あぁ」と呟いてその冷え切った手を取った。

「すまない。気が回らなかった」
「寒さで頭の回転が回っていないんじゃないの?」
「……まぁ、何せ外に出たのは―――――」
「……考え込まないといけないほど前のことっていうのは分かったわ」

握りしめられた手は温かい。
ブラッドの体温がそのまま伝わってくる感覚に、アリスは一瞬口元が緩みそうになった。

(……デートっぽい気がする、)

ぽい、というよりこれは完全にデートだ。
アリスは珍しいことに舞い上がっている。
それでいて脳内がお花畑。うん、自覚している。

すっぽりと――ブラッドに握りしめられたまま彼のポケットに入ってしまった己の右手。
そこだけやけに熱かったから、アリスは余った左手をブラッドの腕に絡めて――身体ごと彼に擦り寄ってみせた。



「……やけに――――」

小さく聞こえた声に、アリスは「うん?」ブラッドを見上げた。
彼の耳は未だに赤くて、その色は先ほどよりも濃い気がする。

「いや――何でもない」
「何よ。気になるじゃない」
「なに、些細なことだ。それより着いたぞ」

「駅から思ったより距離があったな」とボヤくブラッドに、アリスは「そうでもないわよ」と呆れた声を出した。
寒さは確かに身に染みたが、ブラッドの疲労は絶対体力不足。
日頃の引きこもり加減を、今後のためにそろそろ改善すべきだと思うのだ。





□■□





あぁ、この男はこういう男だった。

部屋の入り口で、アリスは頭を抱え出したい衝動に駆られながらそんなことを思った。
だがそんなアリスの気持ちなど露知らず、さっさと室内へ入っていく恋人の背中を蹴り飛ばしてやりたい。できない。

クリスマスのデートとして……多分この状況は最適だ。
定番である。理に適っている。
きっと世の中の女性が憧れ切望し、それでいて夢にまで見る理想のデートだろう。
あぁそうだろう。アリスもいつだったかこんな夢を見た気がしないでもない。
そりゃまぁ年頃の女の子なら?
ちょっと良いホテルで良い食事をして、そのまま一夜過ごすというのは理想型。
これぞクリスマスデート。うん、間違っていない。
間違っていないが……


(そうよね……これがブラッドよね…………)

良いホテル?良い食事?
アリスも大概寒さで思考をヤられていたらしい。
迂闊にも――程がある。

おずおずと室内に足を踏み入れ、途端に視界へ飛び込んできたリビングの全面に展開されている巨大な窓。
覗き込まなくても夜景が一望できるその光景に、アリスはくらりと目眩を覚えた。

「夜景が綺麗ね」とも言えやしない。
今声を出したら確実に上ずった声になる。

ちょっと良い――どころではない超高級ホテルの最上階。
何でこんな部屋を押さえられるのかとことん疑問だが、でも確かにブラッド=デュプレという男はそういう男なのだ。
気まぐれで我が儘で偉そうな引きこもり。
その面があまりにも強すぎたから、アリスはすっかり忘れていた。

この男に――どれほどの財力と権力があるのかを。


「?……どうした。気に入らないか?」
「ち、ちが―――」

や、夜景が……ほら、夜景が綺麗だったから……

部屋の入り口で立ちすくむアリスに、ブラッドは首を傾げてその腰を引き寄せる。


「気に入ったのなら、もっと近くで見ればどうだ?」
「―――――――――」

耳元で囁かれて、ひっと息を呑みそうになったのをアリスは必死に堪えた。
どくどくと高鳴る心臓がうるさい。
緊張で吐きそうだというのはまさにこの事で、寒くも暑くもない丁度良い室内気温の中、アリスの顔は真っ赤だった。



ブラッドが悪い。



そう全てはこの男が悪いのだとアリスは結論付ける。
「どうした」と覗き込んでくる男の顔を押しのけながら、アリスは「なんでもないわ!」と声を張り上げた。
真っ赤になった顔も、どくどくうるさい心臓も、ちょっと震えている足も、それら全てが意識しています≠ニ言っているようで、恐怖と恥ずかしさが入り交じり頭が爆発しそうになる。

ブラッドはこれで結構怖いお兄さんなのだ。
アリスといるときはそうでもないけれど、尋常でないほど頭が良くて、危ないことをしているというのも知っている。
ブラッドもビバルディも詳しくは教えてくれないけれど、そういう面があることくらいアリスだって理解しているのだ。

理解していながら付き合ってきた。
でもブラッドはアリスといる時、あまりにも普通だから……少し、失念していただけ。
ブラッドにもビバルディにも、こんな豪華で煌びやかなホテルの最上階全部を自由にできる財力と権力が――――あ、頭痛くなってきた。

それをアリスは純粋に怖いと思う。
アリスの知らない世界だ。想像もつかない途方もない世界。
そしてそれを当たり前≠ニしているブラッドが、アリスには何より怖かった。


(っていうか、釣り合わないのよね)


ブラッドから顔を背けて、窓の方へと駆け寄りながらアリスは思う。
所詮アリスなど、近所のアパートに住んでいる平凡な女学生だ。
なんやかんやで知り合い気に入られ、こうしてブラッドとはお付き合いという形を取っているものの、アリスがブラッドに合っているとは到底思えない。
ここに来てすぐにした食事。
ホテルの雰囲気と周りの空気に当てられて、美味しかったはずだがその味を1mmたりとも覚えていない。
話した内容さえ―――なんだっただろう。

そんな小娘がブラッド=デュプレという男に似合うはずがなくて、似合うはずがないから――――




「そんなに景色が気に入ったのか?」

こつんと後頭部に顎を乗せられて、アリスの目にじわりと涙が堪る。
腰を引き寄せ抱きかかえてくる男に気付かれぬよう、さっと目尻を拭いながら「だって綺麗じゃない」と当たり障りのない返事をした。

「気に入ってくれたのなら良かった。君のために選んだ部屋だ」
「……私のため?」
「それ以外の何を基準にする?クリスマスに恋人と出掛けて、恋人以外の何を基準にしろと言うんだ」
「――――――」
「君と私は、恋人だろう?」

多分≠ネどと言うなよ?
折角の恋人気分が台無しになる。

ぎゅうっと背後から抱き締められ、囁かれて、アリスの口から漏れたのは「うん、」という何でもない一言だけだった。

恋人、だ。
うん。
そして今日はクリスマスで、デート。

似合わない。似合っていない。
でもブラッドはアリスを恋人だと言うし、ブラッドがそれを肯定してくれるのならアリスに否定する理由はない。
自己嫌悪はアリスの得意技だ。
今日この日にさえ発揮できるほどの得意技。


「ね、ぇ」

ブラッド。


くるんと器用にブラッドの腕の中で身体を反転させながら、顔をあげてアリスは微笑んでみせる。


「何か飲みたいわ」

これほど豪勢な部屋なのだ。
飲み物の一つや二つあるだろうとアリスはブラッドを見上げる。
彼は――「そうだな。あちらに口当たりのいいやつが、」とアリスに背を向け部屋の奥へと歩き出した。

その後ろ姿はいつもと大して変わりない。
いつも通りだるそうで、普段とは違う雰囲気を楽しむ場所なはずなのに、アリスに気を遣っていつも通りに振る舞ってくれる。


あぁ、もうほんと、

(かっこいいのよね。口惜しいことに)


ブラッドといると、アリスはいつも悔しい。
彼が大人で、自分が子どもで、それを嫌と言うほど見せつけられるような気がするから、悔しい。

彼に似合う女になりたいということだ。

その思わされることが、多分悔しい。
だからいつも素直に甘えることができなくて、罵倒して、邪険に扱って、そんなことをしても対等になれるわけがないのに、アリスはブラッドを詰る。


(でも今日くらいいいわよね)


自分達は恋人同士で、彼が大人で、自分が子どもで、ブラッドが格好良いことを、認めても良いような気がした。
普段は恥ずかしいやら口惜しいやらで絶対認められないけど、クリスマスの日くらいいいわよねとアリスは自分に言い訳する。

部屋の奥へと進んでいくブラッドの背中を、アリスは小走りで追いかけた。
「ブラッド――」と名前を呼んで、彼が此方を振り返る前に、アリスはその背中に抱きつき擦り寄ってみせる。




「あの、ね。今日は本当にありがとう」


ふわりと鼻を掠めるブラッドの匂い。
薔薇と紅茶の入り交じった、アリスの世界で一番好きな匂い。

どきどきと高鳴る心臓。
顔が赤いのも重々承知しながら、それでもアリスは精一杯可愛らしく、とびきりブラッドに甘えてみようと思った。
ぎゅっと背中にしがみつき、必死に声を絞り出す。




「大好きよ」




――言った。本心だ。


ぎゅっと――抱きつく力を更に強める。
恥ずかしい。照れくさい。
顔が火照ってどうにもならないのを自覚しながら、アリスはじっとブラッドの反応を待った。

だが、待てども待てどもブラッドは何も言わない。
身動きすらせず沈黙だけがその場を満たしており、アリスの心が少し落ち着きを取り戻すには十分な時間があった。

冷静になると同時に少しばかり不安になったアリスは、「ブラッド?」と呟きながらそうっと背後からその横顔を見上げる。
黒髪で隠れた首筋。
逸らされた横顔。
口元を覆っている彼の片手。
唯一見えた耳元がほんのり赤くて――そうっと自身の身を捩って顔を覗き込むと、その顔も普段からすれば十分過ぎるほど朱みがかっていた。


「――――――ブラ、」
「見るな」

ブラッドから身体を離して向き合おうとするも、慌てたようにそう言った彼に、今度は真正面から抱き締められて身動きが取れなくなる。
顔を見上げたいのに――彼は素早くアリスの頭を抱えてその動きを封じてしまった。


「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「………照れてる?」
「そんなことはない」
「嘘よ。だって貴方顔が真っ赤―――」

になってるじゃない、と言う前に――唇を唇で塞がれて呼吸事飲み込まされる。
歯を割って入ってくる舌に翻弄され、目を開けていられないアリスは結局ブラッドの貴重な表情を見逃してしまった。



「君が悪い――」



耳元で囁かれた声色に含まれた熱。
肩で大きく息をしながら、ようやく立っているアリスにその声は反則だ。

「君が悪い」

再度言われたその言葉に反論はできない。
反論する前にばっと勢いよく抱えられて、慌てている内に放り出されたのはベッドの上。



「ぶら、」っど

ようやく視界一杯に入ったブラッドの表情は険しかった。
もう朱みは収まって、いつものにやにや顔も息を潜めている。
「どうしたの?」と問う前に、眉間に寄せられた皺が気になってアリスはそれをつっと指先で撫でた。
それが更にブラッドを煽ることになるとは知らぬまま――――


「今日は紳士的に振る舞おうと思っていたんだが……」
「え?」
「気が変わった」

君が――可愛すぎるのがいけない。


再度落ちてくる唇。

結局飲み物は作って貰えなかった。
だが、それにアリスが異論を唱えることもない。

クリスマス。
冬真っ盛り。
人生で一番熱い冬だった。


















帽子屋:私はもう死んでもいい
§Vivaldi§:あぁ、そのまま死ね

12月27日。
ぴこんぴこんとLINEがうるさい携帯電話を片手に、ビバルディは片肘をついてクッキーを手に取った。
クリスマスは二日も前だというのに、未だその気分が抜けきっていない男の相手。
それに嫌気が差しながらも、律儀に返事をしてやるわらわの優しさときたら……

§Vivaldi§:結局デート自体は成功したのか?
帽子屋:アリスは悦んでいた
§Vivaldi§:…………変換ミス?
帽子屋:悦んでいた
§Vivaldi§:もう聞かぬ

ブラッドは――柄にもなく緊張していた。
遊び相手は星の数ほどいたくせに、本命となると普段の余裕は消え失せるものらしい。
クリスマスの朝から、さすがに何を着ていこうだとか馬鹿馬鹿しいことは言っていなかったが、そわそわと落ち着きがなく何度ビバルディがクッションを投げつけたか分からない。



『 帽子屋:緊張しすぎて手を繋ぐのを忘れた 』



リアルタイムでこの報告が来たときには、笑い転げるどころかこんなのが自分の弟とか信じたくないと思ったほど。
精一杯めかしこんできたアリスの姿の写真は可愛らしかったが、隣に写っている弟が邪魔でトリミングしたのはここだけの話だ。


帽子屋:背後から抱きつかれた時の私の気持ちが分かるか!!
§Vivaldi§:阿呆な弟を持つわらわの気持ちが分かるか
帽子屋:顔を赤らめて告白してきたアリスの愛らしさときたら、
§Vivaldi§:人の話を聞け


「聞いてよビバルディ!ブラッドったら酷いのよ!?」
「……あぁ、聞いておるともアリス」

で?調子に乗ったブラッドが全裸のお前をガラス張りの窓際に押しつけてどうしたって?

怒りなのかなんなのか、興奮しすぎてアリスは自分が何をビバルディに報告しているか多分分かっていない。
ただ顔を真っ赤にして語るアリスが可愛くて「うんうん」と頷いてやっているのだが、その間も携帯電話は非常識なほど点滅する。


§Vivaldi§:ウルセ━━━━━━ヽ(゚Д゚)ノ━━━━━━!!!!
帽子屋:Σ(´ω`ノ)ノ

§Vivaldi§:キモい

帽子屋:私のセリフだ


「デートは良かったのよデートは!一緒に出掛けるなんて多分初めてだったし、食事も美味しかったわ、多分」
「ほう」
「ホテルの夜景だって凄く綺麗だったし、あまりに豪勢な部屋に気後れはしたけど、作って貰ったお酒は美味しかったしお風呂も広くって――そうお風呂よ!」

あんな!明るい場所で……!!


なんだお前ら。
風呂も一緒に入ったことがなかったのか?とは聞かない。

アリスのアパートは狭く、ブラッドの家はビバルディの家でもある。
自ずとできるプレイには限りがあるだろうし、加えてブラッドの引きこもり体質は異常だ。
ホテルも――今回が初めてではないだろうが、それほど数多く利用はしてないはずである。


「まぁ、楽しめたのなら良いではないか。クリスマスに特別なことをするのは普通ではないか?」
「ふつ…っ、…………あれ、普通なの?」
「情事の話をしておるのなら……まぁプレイとしてはアリだろう」
「……アリなんだ………」

回数は特殊だが。

この一言も、ビバルディは飲み込んだ。
そのまま紅茶を流し込んで考えなかったことにする。


§Vivaldi§:あぁそうだ
§Vivaldi§:立ちバックするときの角度は考えろ
§Vivaldi§:首を痛めておるようではないか

帽子屋:ちょっと待て


「……夜以外に不満はないわ。多分……楽しかった」
「あそこはルームサービスの朝食も美味しかっただろう?」
「えぇ。昼間の景色も綺麗だったわ。結局次の日も夕方くらいまでいたし……」

「何をして過ごしたかは聞かぬよ」
「……うん、聞かないで」

「あのホテルは2階でランチもやっておるのだ。今度二人で行こう」とビバルディが言うと、アリスもようやく顔を綻ばせて「是非」と答えた。
「あのホテルについて詳しいのね」というアリスに、ビバルディは「まぁな」とクッキーを手に取る。

詳しい、というより、詳しくならざるを得なかったと言うべきか。
ブラッドとアリスのデートのために、下見とやらでビバルディは何度もブラッドと様々なホテルを練り歩いた。
女の意見が聞きたいと姉に誘いをかけてくる辺り、ブラッドもそれなりに心して挑んだと褒めてやるべきなのか。

それにしても、何日も何件も実姉とホテル巡りをして、あまつさえデートの様子を逐一報告してくる辺りシスコンとしか言いようがない。
ブラッドと同じくアリスを気に入っているビバルディへの自慢と当てつけも入っているのだろうが、それにしても詳細が事細かすぎると思うのだ。
気に入ったものは独り占めして誰にも見せず囲いたい性分の弟だが、それに反して見せびらかしたい自慢したいという感情を姉へ一心に向けすぎている気がする。
シスターコンプレックスもここまで拗らせたら病気の域だ。


帽子屋:おい
帽子屋:なんで
帽子屋:私の
帽子屋:性事情が
帽子屋:姉貴に筒抜けなんだ

§Vivaldi§:いちいち区切るな通知が鬱陶しいわ

帽子屋:嫌がらせに決まっているだろう
帽子屋:あと自慢もしたい

§Vivaldi§:アリスとティータイムなう

帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)
帽子屋: (# ゚Д゚)

§Vivaldi§:やwwwwwwめwwwwwろwwwwwww



「ビバルディ。さっきから携帯を覗き込んでどうしたの?仕事の連絡?」
「ん?あぁ、すまない。なんでもないよ」

心配そうな顔をするアリスに、ビバルディはにっこり微笑んで見せる。
未だ鳴り続ける通知を尻目に、ゆっくりとした動作で紅茶を口に含んだ。

何だかんだとホテル巡りをして、弟の恋人から語られる話を聞いて、うるさく鳴る携帯を放置しないビバルディも――――


中々ブラコンを拗らせているのだが本人にその自覚は無かった。



追われた無垢は甘い毒を呷る

material from Quartz | title from 模倣坂心中 | design from drew

くまの様からのリクエスト
ノエルの奇跡でちょっとだけ素直になったアリスとそれを見て内心照れてるブラッドがいちゃこらしてるのがいいです!そしてその様子を後で姉にラインで報告する弟と、そのときブラッドがいかに調子乗ってしつこくねちっこかった報告してるアリス!

姉と弟のLINE事情から設定を奪い取ってきました()
アリス素直になってますか!?いちゃいちゃしてますか!?
ほんとはえろえろシーンも書きたかったけど力尽きたのはここだけの話。
ご期待に沿えたか非常に心配ですが、この度はリクエスト頂きありがとうございました!

2015.12.25