「あああっ…!」

中で脈打ち、吐き出される感覚がアリスは好きだった。
四つん這いにされて背後から、という体位は好きでないが、どういう形にしろとにかく中で出される感覚は気持ちがいい。

「ぁう、や……ぬい、」

対して、吐き出したそれをずるりと抜かれる感覚は嫌いだった。
中に注がれたものが溢れ、太ももを伝う感覚。
一気に空洞になる感覚が、アリスは嫌いでふるふると首を振る。

ぐいっと腕を引かれて、今度は仰向けに寝転がされる。
なんとなく酸素が足りない気がして荒く呼吸を繰り返している間にも、先ほどまで差し込まれていたものが自身の中から無くなった感覚に、一抹の寂しさを覚えた。

「アリス」
「ぶらっ、」

だから、再度硬度を持ち直したそれを埋め込まれる感覚が、アリスは堪らなく好きだった。
ぐずりと栓をされる感覚に、アリスはまた一際高い声で啼く。

仰向けになったアリスの腰をしっかりと掴んで、自身の楔を抜き差しする男は楽しげに笑う。
自身の精を吐き出して、一度楔を抜く度に見せるアリスの不満気な表情が好きだった。
だが再度それを埋め込んでやると、満足気に喘ぐアリスの表情が好きだった。
だがブラッドは一度抜く。必ず抜く。
情事が全て終わった後は、彼女が眠るまで挿し込んだまま。
最近では抜くと眠れないだから、中々ブラッドに都合の良い身体になってきている。

それがブラッドは、堪らなく嬉しい。






ブラッドとアリスの休日は、それほど早くは始まらない。
前日シていることがシていることだし、朝起きても気だるさが身体に残って中々動きづらいのが本音でもある。
三回に一回は朝食を取るだろうか。
三回に二回は朝から犬が盛るため、アリスは思うように行動ができない。

今日も今日とて、眠たいアリスの前には、同じく眠そうにしているにも関わらず手があらぬ方向に動いている犬の姿。
衣服?そんなのここ最近身につけて起きた記憶がない。
素肌のアリスを包むのは、冷たいシーツか飼い犬の素肌だけで、あぁもう本当おかしいね?
だがそれに慣れてきている上に、習慣と化している現状はもっとおかしい。
おかしいと思っているけれど、辞める気がないアリスはもっとおかしい。
かくて今日の休日の朝も恒例だ。
ベッドから起き上がるのは昼だろう。





「いい天気ね」
「……そうだな」
「ちょっとブラッド。煙草吸うならこっちで吸って。風上に居られたらシーツに匂いが付くじゃない」

ワイシャツ一枚にスラックス。
ラフな格好で煙草を咥え、アリスの言う通りふらふらと風下に移動する犬の躾は完璧だ。
アリスは洗濯したシーツを干しながら、青空を見上げて目を細める。

「……明るい」
「昼なのに暗かったら驚きよ。太陽が出てないと洗濯物も乾かないし」

「だるい」と呟くブラッドは本当にだるそうだ。
ベッドの上ではあんなに生き生きとしているのに、本当に性根の爛れきった男である。

「……ほんといい天気。眠くなりそう」
「一緒に寝るか?」
「それ、ちゃんと寝ることになる?」
「ご希望とあれば頑張るが?」
「あんたが思っている方向には希望してないわ」

私は純粋に睡眠を取りたいの。

ぽかぽか陽気が眠気を誘う。
暖かい春の日差し。
絶好のお昼寝日和だと思うのだ。
……起きたの昼だけど。


「アリス、腹が減った」


いつの間にか煙草の火を消し、ベランダから出て行こうとする犬はアリスを見ずにそう言った。
気だるげで、彼も眠そう。
「何が食べたい?」と聞けば「任せる」と返ってきて、アリスはオムライスにしようかなぁと洗濯籠を持ち上げた。

何てことない日常だ。
慣れすぎた日々。
いつもの休日。

冷蔵庫を開けて食材を確認する。
ふと流し場を見れば、色違いの皿、色違いのコップ。
お揃いで取り揃えられたそれを、アリスは不思議に思うことなく手に取った。

それが本当はおかしな光景なのだと、慣れすぎた彼女には分からない。



誰も選ばないふしだらな高潔

material from Quartz | title from 模倣坂心中 | design from drew

そろそろ立ち向かうべき。

2015.11.07