興味本位だった。
たまたま仕事が休みで、やる事がなくて、いい天気で、家にいるのもつまらなかったから――来てしまった。


がやがやと賑わう園内。
だがどこか上品で落ち着いた雰囲気の催し物だと思うのは、やはり名門校だからだろうか。
訪れている人も、ぱっと見富裕層の方が多い気がする。
一般開放されている分普段から言うと考えられないほど賑やかだが、下町の学校ならもっと騒がしく奇抜であろう。
少なくともアリスが通った学校はそうだった。

パンフレットを貰って、門を数歩歩いた場所で立ち尽くす。
眼前にそびえ立つ校舎は立派で、まさか自分がこの場所に足を踏み入れることになるとは思わなかったと――アリスは人混みに紛れながらこそこそ校舎内へと入り込んだ。



10月某日。
この時期は、どこの学校もお祭りだ。
学園祭。浮き立つ心は抑えられず、誰も彼もが楽しげに青春を謳歌している。

アリスの犬も―――その内の一人。
まぁ彼の場合は朝からだるい∞面倒だ≠ニ文句たらたらで出て行ったが、彼は割と特殊なケースだと思う。
もっと子どもらしく青春を噛みしめればいいのにと思うのだが、妙にいらぬ知識がつき過ぎているのか彼はこういうことに興味がない。
折角の学校生活くらい楽しめばいいのに、口を開けば今日はサボるだとかサボっただとか……頭はいいようなので勉学の心配はしていないが、その他の事がアリスには心配で堪らなかった。

結果――――覗きに来てしまった。

今日は学園祭。一般開放もされているし、合法的に学生生活を送る犬を見ることができる。
制服は着崩してないだろうかとか、どんなことをしているのだろうとか、友達はちゃんといるのかな、とか――正直気になることは多い。
ブラッドはそういうことを言わないし、アリスも聞こうとは思わないけど気になる。

……気になることを、相手にも許してもらえるだけの信頼関係は築けているはずだ。
あまり自分のことを喋りたがらないブラッドだが、これぐらいは許されるとはアリスは思っている。
っていうか、常日頃人の身体を好き勝手されているのだ。許して欲しい以前に許せと言ってやりたいほど。
アリスは色々さらけ出している。
犬にもそれ相応に見せてもらわないと、割が合わないと思うのだ。


アリスはひょいっと講堂を覗き込み、なるべく隅っこの方へと席へ着いた。
開会の挨拶というものあるらしいので、ついでだから見ていこうと貰ったパンフレットをその場で開く。
ブラッドには見つかると面倒なので気になる所だけ見ていこう。
美術部の展示とか、合唱部の発表とか……名門校なだけそれはもう立派なものだろうと、学園祭の雰囲気に飲まれつつアリスは浮き足立っていた。


ふっと辺りが暗くなり、ブーっというブザー音がなる。
そろそろ始めるのかな、と舞台の方へと視線を向ければ、騒がしかった周囲も声を潜めてそちらへと集中し始めた。
司会進行役なのか一人の女生徒が舞台に上がり、恭しくお辞儀をする。


『それではこれから、当学園の生徒会長より、皆様にご挨拶があります』


明るい舞台の上に、一人の男子生徒が上がっていく。
その後ろ姿には見覚えがありすぎて、アリスは一瞬息ができなかった。

舞台の真ん中で、頭を下げ、演台に手を付き喋り始めたその挨拶が、アリスの耳には一切音として入ってこない。
この状況に一番現実逃避を起こしていたのはアリスで、信じられないというか信じたくなくて軽くパニックを起こしていたのもアリス。
周囲が生徒会長の挨拶を真剣に聞いている中、アリスの頭では「あり得ない」という単語が軽く百は回っていた。

『―――――――――』

聞き覚えの有りすぎる、その低音が講堂全体に響き渡る。
いやでも外用の声というか、似合わない程度には爽やかさを醸し出していないわけでもない。
正直気持ち悪い。
制服もちゃんと着ているし、放たれる言葉はスムーズで聞き取りやすい。
っていうか、え?生徒会長?あの面倒くさがりが生徒会長?
今日サボろうかなってお弁当見ながら言ってましたけど!?
生徒会長それでいいの!!?

っていうか、え!?気持ち悪いんだけど!!!!!!!!


生徒会長―――ブラッド=デュプレの挨拶が終わり、周囲が拍手で包まれる。
だが未だ目を見開いたままのアリスの手は動かない。
何故だかとても――息苦しかった。





しばらく講堂内で放心状態だったアリスだが、ふらふらと立ち上がり、外の空気を吸おうと表へ出る。
がやがやと浮き足立っている周囲とは違って、アリスの精神的ダメージはかなりのものだ。

だって生徒会長?
あの究極の面倒くさがりが?
女の家を転々として煙草は吸うわ酒は飲むわの不良少年が?
生徒会長?生徒の代表?
間違ってるでしょ!!!!

大問題だ、と――アリスは思わず両手で顔を覆う。
学園祭初っぱなから酷い出し物だった。
正直もうお腹一杯だし、ブラッドが家に帰ってきてどんな顔をしたらいいか分からない。
ほんと勘弁して欲しい。

一瞬もう帰ろうかなという考えが頭を過ぎったアリスだったが……逆に考えてこれ以上酷い出来事はないだろうと覚束ない足取りで学校内へと入っていく。
とりあえず、ブラッドには見つからないように。


「格好良かったねー!生徒会長!!」
「うんうん!やっぱり彼女とかいるのかなぁ」
「前に、副会長と付き合ってるって話なかった?」
「え!そうなの!?あぁでも、副会長美人だしなー……」

廊下ですれ違った女子生徒の会話が耳に入る。

ふーん。へぇ。そうなんだー。
どうせ適当に食い散らかしてるんでしょう。
最低だわ。

自分の顔が能面になるのを自覚しながら、アリスは(最低だわ)と事実かどうかも分からない噂話に憤慨する。

「あ、ほら。噂をすれば……」
「ほんとだ!生徒会長と副会長!」

女子生徒達が指さした先を、アリスはちらりと覗き見る。
三階の廊下から窓の外を見下ろすと、教職員らしき人達と一緒にいるブラッドの姿が見える。
その隣には眩しいほどの金髪が美しい美女が立っており、アリスは思わず目を見開いた。

(ほんと……美女じゃない)

綺麗な人だ。
自分より5つも年下なのが信じられないほど、纏う空気に圧巻されそうなほどの美女。
正直ブラッドが年下なのも信じられないが、世の中にはあぁいう顔の造形が整いすぎている人達がいるのだから、世の中理不尽にできている。


(お似合いじゃないの)


そう思って、アリスはふっと視線を落とす。
何故か胸が締め付けられるような感覚に、ぶんぶんと首を振って窓の外から視線を逸らした。

アリスは飼い主でブラッドはペット。
そこに肉体関係は存在するが、別に好き合っているわけでも恋人同士なわけでもない。
爛れた関係だ。欲求だけを解消させる関係。
アリスはそれ以上になりたいと思わないし、きっとブラッドも思っていないはずで……
こんな風に苦しくなるのは、おかしいことだとアリスは分かっていた。

「あー、あっち行っちゃう」

女子生徒の声に、アリスはちらりと窓の外を見た。


(なんだかんだで、ちゃんと学生してるのね)


少し安心したわ、と言い聞かせて、アリスはほうっと息を吐く。
予定通り、合唱部と美術部、あとブラッドのクラスが何をやってるのかだけ見て、大人しく帰ろう。


(じゃあね、ブラッド。しっかりやるのよ)


ブラッドの後ろ姿を見ながら、アリスは心の中でそう呟く。
すると―――

くるりと突然振り返った――ブラッドと目が合ったような気がしてアリスは慌ててしゃがみ込んだ。


「っ!」


やばい、見られたかも。
ていうか、目が合った?

いやいや、あそこからここまでどれほど距離があると思っているんだ。
まさか、まさか――――ね?

そぉっと――しゃがみ込んだままの状態で、頭半分だけを出して窓の外を見る。
そこにはもうブラッドの姿はなくて、アリスはほっとしながら立ち上がった。

(よし。早く見回って帰ろ)

今日はブラッドの好きなものを作ってあげなきゃ。

珍しい飼い犬の姿が見られて、割とリアルに気持ち悪いと思っている反面――アリスはそこそこに上機嫌だった。





□■□





あり得ないものを見た、とブラッドは思う。
あり得ないというか、あってはならないもの、だ。

そう。
まさか、ここに、この場所に、アリスが来ているという事実などあってはならないとブラッドは思う。
来ていたら犯す。絶対犯す。
到底許されることじゃない。
何故かって?そんなの色々見られたくないからに決まっている!

ブラッドは――校内を見回ってくると嘘を吐いてアリスを探し歩いていた。
あの時見た場所は校舎内の三階。
そしてアリスの興味を惹きそうなものと言えば、まず美術部。その次に吹奏楽が合唱部に行きそうなものだ。
因みに合唱部の発表は午後から。
ならば先に吹奏楽かと思い足を向けたが、此方は空振りに終わる。
次に行ったのは美術部。
だがこちらの展示室にもアリスの姿は無くて、もしや帰ったのか?と思いながらもブラッドは彼女を探し歩く。


時折生徒や教員、保護者に話しかけられるのを鬱陶しく思い、「珍しく仕事に積極的ですね」と副会長に嫌味を飛ばされながらもブラッドはぐるぐるぐるぐる校舎内を回る。
窓から門の付近もチェックしながら、アリスの栗色を見つけ出そうとブラッドは珍しく必死だった。

(あと行ってないない所と言えば……)

正直、思いつかない。
思いつかないが、立ち止まっている暇はないとブラッドは歩みを進める。
一周二周、三周回って生徒会室に帰ってきてしまったが、それでももう一周しようと思うくらいには懸命だった。

「―――――」

が、そのブラッドの努力は唐突に終わる。
立ち入り禁止ではないが、人気の少ない生徒会室回りの廊下。
その生徒会室の前で、一人ぽつんと扉を見上げている女の姿が目に入り、ブラッドははっと息を呑む。


やっと見つけた。


ツカツカと廊下を早足で歩き、未だ扉を見上げているアリスの腕を取って生徒会室の扉を開ける。
「きゃ!」と上がった悲鳴を無視して部屋へと押し込み、がしゃんと生徒会室の鍵をかけると、ブラッドが振り返った先にいたアリスは、まさに顔面蒼白だった。





行きたかった場所は全部見た。
だからもう帰ろうと思っていたのだが、折角ならブラッドが普段使っているであろう所も見て見ようと足を向けたのが間違いだったのだと思う。
さすがに中に入るのは躊躇われたので扉を見上げるくらいに留めておいたのだが、まさか部屋に押し込められる事態になるとは思わなかったと―――アリスはブラッドを目の前に冷や汗を流した。



「何を――しにきた」

「え、と………か、観察?」



普段、どんな風に、学校生活送ってるのかなーって……

引きつったような笑みを浮かべるアリスに、ブラッドは「ほう?」と口元を歪める。

「こんなことになるのなら、昨日足腰立たなくなるほどヤっておくべきだったな」
「っ――」

ちょっとそれは、まじで勘弁してください。

ブラッドがやると言ったらやる。
本当に足腰立たなくなって、一日中ベッドの中とか全然あり得る。
あり得るからこそ、勘弁して欲しいとアリスは思わず後ずさった。


「それで?」
「え?」

「ご感想は?」

にっこりと微笑むブラッドの笑顔が胡散臭い。
アリスは「あはははー」と乾いた笑みを浮かべながらも、馬鹿正直に答えてしまう。


「生徒会長とか……何の冗談かと思ったわ」


ピシリ――


一瞬にして凍った空気に、アリスはばっと口元を塞ぐ。
が、感想は既に口から零れ落ちているため、その行動は無意味だ。

たらり――と、嫌な汗が首筋を流れ落ちた。
目の前のブラッドは不気味なほど笑顔。笑顔。
アリスはそろーりそろーりと後ろへ後ずさり、何とかブラッドと距離を取ろうとする。

「アリス」

ブラッドが、一歩足を踏み出す。
「は、はい」と思わず敬語で答えてしまったアリスだが、今の彼女にそんなことを気にする余裕は無い。

「お仕置きが、必要だな―――?」
「!!」

な、にする気――――

更にもう一歩後ずさった先で、何かに躓きアリスは背中から地面へと倒れ込む。
わっと思った時には既に遅く、ぼふんと音を立てて転がった先は生徒会室のソファ。

(や、ば―――)

やばい。やばいやばい。
これはまずい。

急いで起き上がろうとしたアリスだったが、それよりもブラッドがアリスを押さえつける方が早く、彼女の眼前には端正な顔が憎たらしい犬の顔。


「――――――」

「ふむ――お誂え向きだな」

「冗談でしょう!!?」


ソファに押し倒されたアリスがじたばたと暴れるも、ブラッドは相変わらずびくともしない。
むしろ暴れれば暴れるほど落ちそうだが、今のアリスにそんなことを気にする余裕はなかった。
今この瞬間この場所で、この状態に陥っていることが何よりの問題だ。

「折角来たんだ。楽しんで行ってくれ」
「何を!!?」

にっこりと言うブラッドにアリスは悲鳴を上げる。
もう既に、ブラッドの手の位置がおかしい。
アリスの太ももを撫でるように這う彼の手は――部屋のベッドで行われる行為と大差ない。

「まっ――」
「待たない」

ぐっと押さえつけられて、押しつけられたブラッドの唇。
無理矢理口を開かされて入り込んできた舌に、アリスの身体はびくりと震え、犯される口内の感覚に生理的な涙が出た。

「ん――ふっ」

鼻から漏れる吐息。
衣服を剥がれ素肌に直接手が触れる感覚。
明る過ぎる上に開放感のある室内。おまけにソファ。
廊下や窓の外から聞こえる賑やかな声がやけに大きく耳に響いて、アリスは「っやめて!」とブラッドに叫んだ。

「ここ、がっこ――」
「仕置きだと言っただろう」

それに、どうせ誰もこない。

ここは私の部屋で、鍵もかけた。
心配することなど何もないというブラッドに、アリスは問題大ありよ!と叫ぶ。

っていうかあんたの部屋じゃないから!!生徒会室だから!!!!


「そんなに大きな声を出すと、逆に誰かが来てしまうぞ?」
「!!」
「口を噤んで、大人しくしていろ」


君は声が大きいからな。
しっかり抑えていなさい。
手加減するつもりはないぞ?

ぐいっとアリスの足を持ち上げて、自分の肩にかけるブラッドの姿。
口元に手を当てているアリスは声にならない悲鳴を上げて、びり――と何かを破く不快な音に大きく目を見開いた。


「!!!!!!!」


太ももの内側から破かれたストッキング。
そこから入り込んできた指に、アリスの心は絶叫の連続だ。
徐々にアリスの秘部へと近づいていくにつれ、ストッキングの穴は大きくなっていく。

まさか。まさかまさか。
まさかこんな所でストッキングを破かれる羽目になるとは、一体誰が想像したか。
想像……想像できるか!?予想できるか!!?
学園祭を見に来て生徒会室に連れ込まれてソファに押し倒されてストッキング破られる未来とか――誰が想像できるかぁ!!!

アリスの思考がパニックに陥りながらも、ブラッドは手を休めないしその行動も止めない。
ボタンだけを外して滑り込んできた手は、ダイレクトにアリスの胸を鷲掴み、先端を摘まみ上げる。
それにびくりと反応してしまうのはアリスの方で、彼のもう片方の手――下着に隠された密壺をなぞっていたブラッドは、「濡れてきたな」とくつりと笑う。

「〜〜〜〜〜〜!!」
「そんな目をしてもやめないぞ」

最後まで付き合ってもらうからな。

ぐちゅりと――下着の隙間から指を押し込まれて、アリスは大きく目を見開いた。
思わず浮いてしまった腰がブラッドの指を深く飲み込み、ぐちゃぐちゃとかき混ぜられて吐息が漏れる。

「んんっ、ぁ、ん!」
「……君の声が聞けないのは残念だが……必死に声を堪えているという構図も、中々そそる」

この変態!!!!!

普段なら絶対浴びせる罵声も、今では心の内だけに留めておく。
今声を出したら、罵声と同時に嬌声も出てしまいそうで、とにかくアリスは声を漏らさないように必死だった。

両手で口元を押さえていたアリスの手の甲に、ブラッドは優しく口付ける。
涙で滲んだ目をそっと開けると、ブラッドの翡翠の瞳に覗き込まれて、アリスは思わず「ふっ――」と声を漏らす。

指一本一本に口付けられて、ブラッドは丁寧にそれをアリスの口元から外していく。
ブラッドの指は未だにアリスの中に入ったままで、動きこそしてないものの、いつ快感を与えられるかと思うと気が気でない。

アリスの口元から彼女自身の手を少しだけ避けた後、ブラッドは深く口付けを落として舌をねじ込む。
それと同時に指を引き抜き、アリスが安堵したのもつかの間―――今度はブラッド自身を押し当てられる感覚がして、アリスは大きく目を見開いた。

「ん―――――!」

ぐずり、と――差し込まれる感覚に喉を仰け反る。
浮き上がった腰はしっかりと押さえつけられ、声を出さないようにと口付けられたまま、アリスはあまりの快感に目の前で火花が散るような感覚を味わった。

「んっんっ、ふぁ……んっ」

ずぷずぷと抜き差しされるそれに、視界がチカチカと散る。
押さえつけられ身動ぎもできず、ただひたすらに突かれる感覚はいつも味わっているものだ。
アリスの好きな―――犯し方。
アリスはこうやって犯されるのか好きなのだと、ブラッドはよく知っている。
とにかく焦らしてアリスの反応を楽しむのが好きなブラッドと違って、アリスはこうして逃げ場のない快楽を与えられるのが好きだ。
受け入れるしかないこの状況が好き。

日常にしろセックスにしろ、選択することが苦手なアリスは、こうして与えられるだけの行為に安堵する。


(イ、 く―――イっちゃ、)


収縮し始めた内部に、アリスはもう限界だった。
ブラッドもそれを分かっているのか、「っ出すぞ」とアリスの耳元で囁いて、穿ち方を変えてくる。
性急で激しくなったそれに、アリスは今この場所がどこかも忘れて絶頂に達した。
びくびくと震える身体に、遅れてブラッドの吐き出したものを注ぎ込まれる。

ようやく終わったその行為に、アリスは目尻に浮かんだ涙を拭いながら(私も大概最低だわ)と自嘲した。





□■□





「さいってーだわ」

ソファを拭きながら、アリスはぼそりとそう呟く。
「私は最高の気分だ」と返してくるブラッドは、生徒会長専用の椅子に座ってくるくると遊んでいる。

「どうしてくれるのよ、この格好」
「そのまま帰ればいい」
「ふざけないで!そもそもあんたが破くから――!」

破かれたストッキングはもちろん脱ぎ捨てた。
破かれている以上にお互いの体液でどろどろになったそれなど、もう履けた代物ではない。
正直下着も酷い有様だというのに、このまま生足を晒して校舎を出て、電車に乗って帰るとか狂気の沙汰だ。

「学園祭が終わるまでここにいればいい。そしたら私が連れて帰れる」
「……今日バイクで来たの?」
「あぁ。スカートの下に私のジャージでも履いておけば問題ないだろう」
「ブラッドのジャージ……」

ジャージ。
多分体操着のことだろう。
この学校に体育祭というものはあるのだろうか。
正直競技しているブラッドとかもの凄く見たいのだが、今回のことのようになっては嫌なので絶対来ない。


「5時には終わる。この部屋には誰も来ないから待っていなさい」
「お昼からは部屋の掃除をしようと思ったのに……」
「次の休みにするんだな」

そもそも、私に隠れて来た君が悪い。

行くって言ったら絶対阻止したくせに。
アリスはそう思いながら、はぁと一つ溜息を吐いて窓の外を見上げた。


「ま、面白いものが見れたからいっか」
「面白いもの?」
「開会の挨拶」
「!!!」


ばっと耳まで赤くしたブラッドの横顔は、開会の挨拶の次くらいに面白かった。



軽蔑の唇で愛撫

material from Quartz | title from 模倣坂心中 | design from drew

ごめんなさい、やっつけで書いてます。一回はやってみたかったソファネタ。

2015.10.21