飲み会は嫌いじゃない。
人とわいわい賑やかな雰囲気は楽しいし、お酒を飲むと心も浮き立つ。
普段は聞けない話も聞けて、自分も心なしか饒舌になる。
仕事の話、プライベートの話。
気心知れた同僚と、尊敬する上司と、お酒を酌み交わしながら行われる会話は面白いことの方が多くって、アリスの飲み会参加率はそれほど低い方じゃない。
一人暮らしで時間にも余裕があるし、恋人がいるわけでもないアリスには、他の女性社員より声がかかる率が多いのだ。
もちろんそれは―――犬を飼い始めてからも変わらない。
お声掛けの頻度も、参加率も、昔と変わらないペースでアリスは飲み会に出向く。
実はお酒も好きなのだ。
嗜み程度どころかそこそこ飲める。酔うと言ってもへべれけになったりしないし、記憶だっていつもちゃんと残っている程度のもの。
ただ犬を飼い始めて暫くたった頃から――早く帰りたいなぁと思うことが多くなった。
アリスの犬。
翡翠の瞳が綺麗な、アリスのペット。
お酒が頭を回り始めると、アリスはぼーっと犬のことを考える。
今何してるかな、とか。
ご飯食べたかなお風呂入ったかなもう寝ちゃったかな、とか。
何かもう帰るの面倒くさいから、バイクで迎えに来てくれればいいのにとか。
あのさらさらな黒髪を撫でたくって、ぎゅうううっとその頭を抱え込みたくなって、甘やかしてやりたい気分になる。
それと同時に私の頭を撫でて欲しくて、抱きしめて欲しくて、あの欲の篭もった瞳で見つめられたら、何をされてもいい気分になる。
家でたまにお酒を飲む時は時々だが、こういう飲み会の場でお酒を飲むと、必ずと言って良いほど無性にセックスがしたくなるのは何故なのか。
何をされたわけでもない。
触れられたわけでも触れたわけでもないのに、自分が濡れているのがよく分かる。
抱かれたいなと思ったら、頭に浮かぶのは当然ブラッドの顔で、アリスは家に帰るのが待ち遠しくなるのだ。
アリスが自分から衣服を脱ぐことは少ない。
少ないというより、多分ない。
自分は脱がされる方が好きだし、ブラッドも脱がす方が好き。
明るいのは嫌いなので電気は絶対に消す。
その代わり、ベッドの脇に置いてあるスタンドライトを点けて……これも結構明るいのだが、これ以上はブラッドが許してくれないのでアリスは渋々付き合っていた。
でもブラッドの顔が見えるのは確かに良い。
あまり夜目の利く方じゃないアリスには、真っ暗にされると本当に何も見えなくなってしまうのだ。
ベッドの頭を背もたれにして座るアリスを、ブラッドは楽しそうに脱がしていく。
その表情を見るだけでアリスはぞくぞくしてしまって、少しでもブラッドの指先が素肌に触れると、思わずびくりと身体が反応する。
ベッドに横たえさせられるのは下着姿になってから。
そこでようやくブラッドは上だけ脱いで、アリスの下着を剥ぎ取りながらキスをしてくれるのだ。
最初は触れるだけ。徐々に深くなっていくそれは堪らなく気持ちいい。
思わず漏れる吐息に、ブラッドは満足そうに笑って唇を下へと下げていく。
首筋、胸、お腹、足を持ち上げられて、太ももの内側を舐められる。
びくびくと震える身体の中心が湿っていく感覚に、アリスはぎゅっと目を閉じて耐えるが、これから何をされるか分かっている身体は期待して止まらない。
胸の突起を弄っていた手が下へと滑る。
花芽を擦られ、摘ままれ、舐められながら、ぷつりと彼の指が中に入ってくる感覚に、一際大きい嬌声を上げる。
この瞬間は――実はあまり好きじゃない。
指でぐちゃぐちゃとかき回される快感はどこか物足りなくて、もっと別のものが欲しいと違う意味でアリスは苦しくなる。
そしてブラッドは、きっとそんなアリスを見るのが好きなのだ。
指で内部を擦り上げながら、にまにまとアリスを見下ろす彼の表情。
墜ちていくアリスを見て、面白がっているブラッドの首筋に手を回してキスを強請れば、彼はちゃんと応えてくれるのがまた口惜しい。
その間も指の動きは止まなくて、不本意ながらも一度は必ずイってしまう。
その後、ブラッドのモノを咥えさせられるかどうかは彼の気分次第だが、大体の場合はそのまま挿入される。
イったばかりの内部はまだ震えているのに、問答無用で貫かれる感覚が好きだ。
アリスのナカが蠢く感じが好きなのか、挿入したばかりのブラッドの打ち付け方は荒い。
有無を言わせず二回目の絶頂を強要されるのは毎回のことで、ブラッドに仕込まれた身体は彼の思う通りに反応する。
二回目の絶頂の快楽はとんでもなくて、頭が真っ白になり、目がちかちかと虚ろ気なまま再開される緩やかな抽送には息を整える暇もなくて、でもその動きが堪らなく気持ちいいからアリスはいつもブラッドにされるがままだ。
体位を変えて、打ち方を変えて、ブラッドはアリスとのセックスを楽しんでいる。
アリスは快感に頭が真っ白で喘ぐことしかできないのに、ブラッドはそれが楽しいという。
セックスについての技巧など求めていない。
されたらそれは嬉しいが、それを仕込むのも楽しみの一つだという。
夜だけ――ブラッドとアリスの立場は逆転するのだ。
アリスがブラッドに躾けられている。
ブラッドに都合が良いように、調教されている。
アリスはブラッドの慰み者。
一時期は逆かもしれないと考えたが、ブラッドはアリスの意思とは関係なくアリスを抱くのだからそれが正しい。
『飼い主への奉仕だよ――』とブラッドは言う。
四つん這いになったアリスの腰をがっちりと固定して、乱暴に突き上げながらそんなことを言うのだ。
まるでアリスがブラッドで自慰行為をしているかのように、私が望んだことだと執拗に言う。そして言わせもする。
こうして欲しい、あぁして欲しい、止めないで、犯して。
快感に逆らえないようアリスの身体を仕込んだのはブラッドなのに、それがまるでアリスの意思かのようにブラッドはそれを口に出させようとする。
酷い男だ。
でもアリスがちゃんと口にすると嬉しそうにするのだから――もういいかなという気分になる。
……危ないな。大分調教済みだ。
まぁだから――最近はアリス自身も開き直っている部分があるのだけれど。
だって気持ちが良いのだ。
ブラッドとのセックスは好き。
抱いて欲しい時はお願いもするし、それとなく誘ったりもする。
休日の真っ昼間からブラッドに押し倒されても文句が言えないほどにはハマっているのだから本当――アリスも大概だ。
つまり―――
ここまで長々語ってきてつまり何が言いたいかというと、アリスはとことん馬鹿になっているという話なのだ。
ソファに座っていたブラッドの膝の上に乗って、アリスは「ふむっ」と深く口付ける。
舌で舌を絡め取るキスのやり方はブラッドに教わったことで、それを忠実に再現できるようになったのは昨日や今日の話ではない。
「今日も中々酔っているな」とアリスの背中を撫でるブラッドに、当の本人は「うん」と肯定しながら彼の服へと手を掛けた。
「……連絡をくれればすぐ迎えに行くと言っただろう。こんな遅くに一人で出歩くな」
「仕事仲間が送ってくれるって言うから、いいかと思って」
一個ずつボタンを外す。
頭がふわふわしている分その手取りは覚束ないが、意識がはっきりしているだけ投げ出すことはない。
「仕事仲間……男か?」
「えぇ、そうよ。彼の家反対方向なのに、申し訳なかったわ」
「……へぇ?」
アリスの言葉に対してブラッドの返事は抑揚がなかったが、それを彼女は気にした様子もなく彼の服を脱がす。
露わになった素肌。
その首元へちゅっと吸い付けば、薄く小さな花が咲き、アリスはとろんとした目つきで「ふふふー」と笑う。
ぺろりとブラッドの首を舐めるアリスを、ブラッドは軽々抱えてベッドへと下ろした。
とさりと仰向けに転がった彼女は、「まだ駄目!」と叫んでブラッドの首をぐいっと引っ張る。
「ん。まだ駄目」
アリスに為すがまま――仰向けに転がったブラッドの上に、彼女は乗り上げキスを落とす。
ふわりと漂うシャンプーの匂いに混じって、甘い酒の匂いがした。
飲み会から帰ってきてふらふら〜っと風呂に入り、ふらふら〜っと出てきてブラッドに絡み始めたアリスは上機嫌だ。
仰向けになっているとは言え両手は自由。
ブラッドはむき出しになっているアリスの太ももへ手を滑らせ、ゆるゆるとそれを撫でる。
髪は乾かしてきたようだが、バスタオル一枚巻き付けただけの彼女は、見た感じ下着もつけていない。
「ブラッド、だめ」
ぺしりと手を撥ね除けられて、ブラッドは「何が駄目なんだ?」とアリスに啄むようなキスをした。
「年頃の……健全な男子学生を押し倒しておいて、駄目なことなどないだろう?」
「やだ。だぁめ」
「抱いて欲しいんだろう?」
「うん、シたい。すき」
とろんとした目で、ふわりと笑う彼女の表情が幼く見える。
ブラッドはアリスの職場での付き合いがあまり好きではない。
恋とか愛とかは分からないが、それなりに執着心を抱いているアリスが他の男と楽しげにしているのは気に入らないし、今日みたいに送ってもらったなどと聞くと腹立たしい。
だが割と頻繁に行われるこの飲み会に意義を申し立てないのは、飲み会後の――アリスのこの態度。
「ブラッド……ここ、舐めちゃだめ?」
「―――舐めるより、舐められる方が好きだろう?ほら、ここ」
「んぁ、ひゃんっ」
「あぁ、もうよく濡れているな……」
「だめだめっ、まだ、まだ指いれないで…っ」
くちゅりと響く水音。
びくびくと身体を震わせるアリスに、ブラッドは笑みを深めてそのまま指を押し込める。
「ああぁん!」
「上の口より、こっちで私を慰めてくれないか」
「んっんっ、やだ…っ指やだっ」
「そのままタオルを取りなさい。今日は明るいから、よく見えそうだ」
この明るさでこの格好は、滅多に見られないからな。
仰向けに寝転がっているブラッドの上で、アリスが膝立ちになって身体を震わせている。
身体にバスタオルを巻き付けたまま秘部を弄り倒されているアリスは、ブラッドの言う通りタオルを外してベッドの下へとそれを落とした。
指で秘部をかき回されているアリスを下から見上げるという絶景に、ブラッドはこれだから止められないとほくそ笑む。
家で酒を飲んだ時もしばしばあるが、飲み会に出たアリスは必ずと言って良いほど帰宅後に情事を迫る。
酒を飲むとヤりたくなるアリスはいつにも増して官能的だし、羞恥心が半分以上麻痺して従順になる彼女はとてつもなくいやらしい。
「あぅ…んん、あっ」
指を噛んで声を抑えるアリスのナカを混ぜながら、ブラッドは器用に身体を起こして彼女と向き直る。
電気のついた明るい室内。
快感に身悶えるアリスの顔を覗き込みながらその噛んでいる手を外すと、彼女はブラッドの肩に頭を乗せて堪らないというように喘ぐ。
耳元でダイレクトに響く嬌声に、ブラッドは「もっと聞かせろ」と言わんばかりに指を増やして蹂躙する。
「ひゃあぁ…!」
びくびくと震える内部。
「ゆび…っいやぁ」と泣くように喘ぐアリスの首筋を舐める。
耳と首が特に弱いアリスは、たったそれだけのことにきゅっと中を締まらせてよがり、訴えるように懇願し始めた。
「んぁ…ぶらっど、ぶらっどこっち……っ」
「…そんなに欲しいのか?」
「ほしい…っぁ、ん、」
今にもはちきれそうなほど膨れ上がったそこを、アリスの指がなぞる。
放って置いたらその内ベルトを外し始めようとするアリスを押し倒しながら、ブラッドは自身の楔を取り出して彼女の中から指を引き抜く。
うっとりと、期待を込めた目でブラッドを見つめるアリスの瞼にキスをしながら、濡れた密壺にそれをあてがいゆっくりと腰を沈めた。
「んんっ…あ、あ、んあ」
きゅうきゅうと締め付け、奥へ奥へと誘おうとする中は気持ちが良い。
もっと焦らして虐め抜いてから突き上げてやるのも好きだが、今のようにアリスの望み通りにしてやるのも悪くない。
嫌がる彼女を犯すのも楽しいが、今のように、ブラッドに抱かれて満足そうにするアリスの表情を好きだ。
「ぶらっど、ぶらっどっ」
だっこ。
首筋に腕を絡めてくるアリスをぎゅっと抱きしめてやりながら、奥底まで入った楔を緩やかに出し入れする。
少しでも激しくするとすぐにイってしまいそうな彼女の中を、器用に犯しながらその額に口付けた。
「あっあっ、やだ、」
「……何が嫌だ?」
「ふっ、もっと、もっとはげしくしてぇ」
「こうか?」
少しだけ、速度を上げる。だが彼女がイくにはまだ足りない。
「ああぁ!…っ、や……もっと!」
もっと、もっと、ちゃんと突いて…っ
「いつもみたいにしてくれなきゃやだぁ…!」
ぐちゃぐちゃ、されるのが好き
奥、いっぱい突いて、おさえつけて、
いやってゆっても、聞いてくれないブラッドがすき、
やだってゆっても止めてくれない、犯されてるかんじが、すき
もっと、いつもみたく、むりやり、して
きもちよくしてくれたら、何してもいいからぁ
「あぁっ、でも、」
今日は、じらされるのやだ
少しだけ奥を突くと「んっ」とよがって中が締まる。
抜こうとすればぶんぶんと首を振って嫌がり、何度も「お願い」してくる彼女の姿が堪らなく可愛い。
望み通りに突き動かしやったらどんな悦び方をするのかと思うと、ブラッドは自身が持って行かれそうなのを必死に抑えながら浅くアリスを突く。
「っはぁ……好きだよ、アリス」
「あぁぁ…っすき、すき、ブラッドっ」
「――ここを突かれるのが?セックスが?それとも私が?」
「あああ!ん、あ!ぜんぶっ……ぜんぶ好きぃ」
ぶらっどぉ…っ
ぼろぼろと涙を零すアリスの頬を舐める。
ぐちゃぐちゃという卑猥な水音狭い部屋に響いてシーツを濡らし、アリスの甘い嬌声がブラッドの脳髄を冒す。
これ以上焦らした所でブラッド自身が限界だ。
欲望のまま腰を打ち付け始めると、アリスは一際甲高い声で鳴く。
その声をすぐ近くで聞き、時折「すき」と言われる強烈な単語に目眩を覚えながら、まるで噛みつくようにアリスの首筋へと口付けた。
「ああっ!イ…ちゃ、も……」
ああああぁぁ!
悲鳴のような嬌声に、アリスの内部がきつくブラッドを締め上げる。
それと同時に、ブラッドは己の精を彼女の中に吐き出した。
彼女の一回目の絶頂と同時に果てるなど久しぶりな気がすると、荒い息を整えながらびくびく震えるアリスを見下ろす。
ふと時計を見ると、とうに日付は超えていた。
……あと二回はできるな。
ただでさえ酒で意識が朦朧としている彼女が、どこまで意識を保っていられるか見物だと――
彼女の中にはめ込んだ楔を引き抜かぬまま、ブラッドはアリスに深く口付けた。
□■□
何度も言うが、私は馬鹿になっている。
馬鹿も馬鹿。大馬鹿もの。
ベッドの中でごろりと寝返りを打ちながら、カーテンの隙間から外を見る。
太陽の光が眩しくて目を細めるも、すぐに青空が視界に映って(良い天気だなぁ)なんて呑気なことを思った。
布一つ纏わぬ姿。シーツを手繰り寄せて胸を隠し、ベッドの上にちょこんと座る。
暫くぼーっと外を見続けていたが、突如キッチンの方でガチャン!という音が聞こえ、アリスはやれやれと思いながらベッドから降りた。
足下に落ちていたブラッドのワイシャツを拾い上げ、袖を通して二、三個ボタンを留める。
さてさてどうしたと、キッチンの様子を見るべく寝室を出ようとしたら、今度は掃除機の音が聞こえてきた。
きっとお皿か何かを割ったのだろう。
珍しいミスをするものだと寝室を出れば、「何だ起きてきたのか」とブラッドが目を丸くする。
「体調はどうだ?二日酔いは?」
「……だるいかも。でも具合は悪くないわ」
お腹空いたし……
「上半身裸なんて風邪を引くわよ」と抱きつけば、「……じゃあ今君が着ているものは何なのかな」と苦笑交じりに抱きしめ返される。
「ブラッドの忘れ物よ」
「なるほど。じゃあ返してくれ今すぐに」
「私が裸になるじゃない。嫌よ」
「……追剥ぎ≠ニいう言葉を知っているかな?」
「盗んでないわ。借りてるだけ」
いけしゃあしゃあとそう宣うアリスを、ブラッドはひょいと抱えて寝室へと戻る。
ぼすんとベッドに彼女を下ろせば、子どものようにごろごろ転がるその姿を見て、「朝食を用意するから待っていなさい」と声をかける。
「お腹が空いたわ。もう待てない」
アリスがそう言うと、ブラッドは彼女からワイシャツを剥ぎ取りながら「すぐだよ。良い子にしていなさい」と言う。
アリスはシーツにくるまりながらそのワイシャツを返して、「早くね」と言った。
寝室を出て行くブラッドの後ろ姿を見ながら、アリスは一人溜息を吐く。
ほらね。馬鹿になっているの。
甘えている。甘えても許される。
甘えたい。甘やかされたい。
日頃と立場が逆転するこの雰囲気が、アリスは嫌いじゃなくて泣きそうになる。
アリスは馬鹿になっているのだ。
ブラッドに絆されて、甘やかされて、どうしようもないほど馬鹿になっている。
犬相手に―――自分は何をやっているんだろう。